2024年日本市場株主総会シーズンの注目点

上野直子

最近のコーポレート・ガバナンス改革は、日本企業、そして日本市場全体に大きなインパクトを与えることができたのか? 取締役会は、日本市場におけるガバナンスの課題である、資本効率、気候変動やESG、取締役会の多様性、コンプライアンス・リスクの管理・監督などに対して、どのように説明責任を果たすのか。これらの動向を考察することで、コーポレートガバナンス改革が与えたインパクトを測ることができるだろう。この記事では、その概要を紹介する。

資本効率

東京証券取引所(東証)は、2023年の株主総会シーズンに先立ち、「資本コストと株価を意識した経営の実現に向けた取組みについて」を公表し、プライム・スタンダード市場上場会社の取締役会に対し、PBRや市場評価とともに、資本コストや資本利益率の改善に向けた方針、目標、計画期間、具体的な取組みの検討・策定を促した。 この規制の後押しは、資本管理方針をめぐる株主からのプレッシャーが高まったことを受けたものだ。

規制や投資家の関心の高まりは明らかに市場に対して影響を与えてるようだ。 東証が後押しした当時、プライム市場の上場企業の約半数はPBRが1倍を下回っていたが、 2024年3月末現在、プライム市場の上場企業の約60%がPBR1倍を超えている。

一方、資本効率の低迷に対処するための戦略的な改革に踏み切れていない企業も相当数あり、その一方で投資家の期待やプレッシャーは高まり続けている。日本国内の資産運用会社の中には、ROE方針を5%から8%に引き上げる、PBR方針を定める、あるいはその両方を行うなど、議決権行使方針の変更を発表したところもある。そして、2023年には自社株買いに焦点を当てた株主提案が急増した(下記参照)。

さらに、コーポレート・ガバナンスと資本効率の双方に悪影響を及ぼすと言われる持合い株や政策保有株式については、京成電鉄や豊田自動織機など、今後も削減要求が続くだろう。

気候変動とESG

期待の変化は株主提案を通じても表明されており、昨年は自社株買い関連の決議件数が42%増加し、株主提案数は全体で28%増加した。

昨年の株主提案の半数以上がESG問題に焦点を当てたものだった。 ESGに対する投資家の注目は今後も続くことが予想され、リスクが高いと考えられる業種の企業以外にも拡大する可能性がある。 2024年の株主総会シーズンでは、三井住友フィナンシャルグループ、新日本製鐵、中部電力などに対して、気候変動関連の株主提案が提出されている。新日鉄への株主提案は、オーストラリア企業責任センター(ACCR)、投資家エンゲージメント・グループ、コーポレート・アクション・ジャパン、リーガル&ジェネラル・インベストメント・マネジメントが共同で提出した。

取締役会の多様性

取締役会の構成もまた、社会の期待の進化が影響を及ぼしている分野である。 政府や規制当局からの圧力もあり、岸田首相は2025年までに少なくとも19%、2030年までに30%の取締役会のジェンダー・ダイバーシティという目標を示している。 また、グローバルな投資家だけでなく、多くの日本の国内投資家も、取締役会に少なくとも1名の女性を加えることを求める議決権行使方針を導入している。

その結果、2023年には、女性取締役のいないプライム上場企業の取締役会において、経営トップを含む特定の候補者に対する反対意見が大幅に増加した。 これを受けて、多くのプライム上場企業が、少なくとも1人の女性を取締役に選任し、女性取締役が1人もいないプライム上場企業の割合は、2022年の20.8%から2023年には12.2%に低下する。 投資家の反応:昨年、キヤノンの御手洗冨士夫最高経営責任者(CEO)の再選は、ジェンダー多様性への懸念から50.6%の支持しか得られなかったが、2024年3月、キヤノンが初の女性取締役を任命した後、同じ提案が90.9%の支持を得た。

注目すべきは、大多数の企業がこの変化に賛同していることだ。 最近実施したグラスルイスの調査において、取締役会のジェンダー多様性への懸念が経営トップへの高い反対率につながる傾向について、各社に意見を尋ねたが、そのような結果が「適切ではない」と回答した企業は5.7%にとどまり、投資家の新たな期待に対して、熱意はないにせよ、ある程度は受け入れている回答者が大半を占めた。

コンプライアンス・リスクの管理・監督

日本市場を国際的なベストプラクティスへ近づけるガバナンス改善は、世界の他の地域から投資家を日本市場に引き寄せている。しかし、このような市場全体の改革は、取締役会の監督機能に重大な懸念があるような企業への注目を高める効果もある。 例えば、トヨタ自動車は、安全性や排ガス認証に関するグループ会社における不正行為への対処に追われている。一方、エネオスホールディングスでは、2022年8月に前会長兼CEO、2023年12月に前社長を含む3人のトップが、女性に対する不適切な行動のために過去2年間にグループを去った。 最近の市場全体のガバナンス改革が実質的なものか、表面的なものなのか、まだ十分な答えが出ていない中、これらの企業がどのように対応し、機関投資家がどのように議決権を行使するのかに注目が集まっている。

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その他のリソース

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日本におけるジェンダー・ダイバーシティ座談会&企業調査:エグゼクティブサマリー